デザインのアウトプットをより磨くために人間を知る

こんにちは、デザイナーの新垣です。
今回はアトラエの開発メンバーで年末の取り組みとしてやっているAtrae Advent Calendar 2020 の記事を少し編集してお届けします。

この記事ではデザインアウトプットの質をあげるために人間の性質を知って、対策につなげようという趣旨の内容です。

🔰 はじめに:人間は様々なバイアスに振り回されている

まずはじめにこの記事でお伝えしたいことは、人間は様々なバイアスに振り回されているということです。理屈や合理性だけでは説明できないのが我々です。認知バイアスという言葉が心理学で存在しますが、画像にあげたものを例に多くのバイアスが存在し、我々は日々の生活でそのバイアスで誤った判断をしている場合があります。

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2020年12月段階ではwikipediaの認知バイアスのリストは200ほどの内容が記載されているようです。

次の章から、アウトプットの質を高める過程でどんなバイアスに振り回されているのか、バイアスに振り回されている自分自身というものを自己認知することでどのように行動が変えられるのか、アウトプットの質を上げるために具体的にどんな対策があるのかについて説明していこうと思います。

アウトプットを出す上で邪魔になる2つのバイアスの紹介

そんな多くのリストからこの記事では2つのバイアスについて紹介しようと思います。

⚫︎ 正常性バイアス(現状維持バイアス)
⚫︎ サンクコスト(埋没費用)効果

僕の実体験としてこの2つが存在し自分もバイアスにかかっているかもしれないという認識、そこに対して対策を持つだけでも、アウトプットを磨くコトにより意識を向けられ、結果的にアウトプットの質は高まりました。

正常性バイアス(現状維持バイアス)​

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正常性バイアスとは、現状から未知の状態に変化することを「安定した現状が無くなってしまう損失」と認識する心理が影響して現在の状況に固執してしまうバイアスです。

その結果、過去/現在/未来が同一線上にあると考え、現状に対する変化を拒んでしまい、変化の兆しがあっても自分ごととして受け止められない事象に陥ってしまいます。

デザインのアウトプットを出す状況でこのバイアスがどう悪影響を与えるのかをイメージしたものが下記画像です。

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チームでデザインを行っていると、自分が今まで作ったものに対して、予想外のフィードバックがくることも多々あります。

フィードバック内容によっては、アウトプットの質をグンとあげる内容が存在するかもしれません。そういった局面で自分がやっていることを正当化したり、視野狭窄や思考停止をしていないかを自己認知することが重要になってきます。

サンク・コスト(埋没費用)効果​

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サンク・コスト効果とは意思決定をする際にこれまで支払ってきたお金や時間、労力を気にするあまり「せっかくここまで頑張ってきたんだから」とか「今までかけてきた時間/費用がもったいない」とすでに支払ってきたコストに意思決定が引きづられる心理現象のことです。​

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サンク・コスト効果がデザイン上で発揮されてしまうと、別の路線を考えたい場合に過去の自分の頑張りに引きづられて、アウトプットの価値ではない部分で意思決定してしまったり、人からのフィードバックを適切に受け止めきれない状態に陥ってしまいます。

2つのバイアスを壊してアウトプットを磨くための対策

実体験を通じて僕自身は次の4つの対策を取ることでアウトプットを磨くことに集中できたと感じています。

1. バイアスが存在するという事象を認識する
2. フィードバックは金脈と考える
3. アウトプットのコンセプトを尖らす
4. 態度を選ぶ

1. バイアスが存在するという事象を認識する
そもそもこういったバイアスが存在し、我々に作用することを知ることが、対策のための一歩となります。自分の軸を持つことは大事な一方で、自信過剰に陥り視野狭窄にならないためにも人間の思考というものを信用しすぎないことが大事だったりします。

経験の足りず、知らないときの自分は悲惨なもので、フィードバックを受け止められない自分にただイライラしたし、変な思考に引きづられて出すアウトプットはことごとくうまくいかないしの連続でした😞

しかし知ることで行動や思考が変わりアウトプットを磨くことに意識を向けられるようになりました。

正常性バイアス(現状維持バイアス)については社会心理学や災害心理学などで良く用いられるようでこちらの本は参考になりました。

📕 人はなぜ逃げおくれるのか ―災害の心理学 (集英社新書)

他のおすすめの本などはこの記事の最後にまとめましたので参考になれば幸いです。

2. フィードバックは金脈と考える

次はフィードバックは金脈だと考えることです。デザイナーなりたての頃はフィードバック自体が自分自身に対するフィードバックのように感じて、アウトプットを共有することに躊躇する方もいますが、プロトタイプをどんどん出して、フィードバックをもらうことがアウトプットを磨く秘訣になってくると思います。

デザイナーは初めてプロダクトに触るユーザーのようなものであり、プロトタイプをチームに共有する間はチームメンバーもユーザーでありデザイナーみたいなものです。

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フィードバックは世に出る前からもらえるユーザーの意見であり、アウトプットを磨いていく金脈だと考える。

磨いたアウトプットが良くなるのであれば、サンク・コスト効果に対しても前向きに向き合えるかもしれません。

3. アウトプットのコンセプトを尖らせ幅を出す。
これは正常性バイアスに特に効く対策だと感じています。

コンセプトを尖らすことによってもらうフィードバックもわかりやすくなります。そして幅を出すことでいくつもの路線で吟味することが可能になります。

幅も少なく、コンセプトが曖昧な場合フィードバックも曖昧になり、全体的になんか。。。という内容になり受け取ってもアウトプットを磨きにくくなります。幅がない曖昧なコンセプトは、むしろ正常性バイアスを補強させることになりかねません。​

わかりやすいコンセプトをいくつかの路線で考えることで正常性バイアスの効果を受けずに判断できますし、フィードバックをする側もどの路線に対してかはっきりするのでフィードバックもしやすくなります。

コンセプトをつくるために参考になった本も紹介しておきます。

📕コンセプトのつくり方

4. 態度を選ぶ

これは正常性バイアス / サンク・コストを打破し、アウトプットを磨く上で一番大事なスタンスだと思っています。

フィードバックをする側も人間です。実際にアウトプットを出す際にムスッとした顔をして聞くメンバーにアドバイスしやすいでしょうか。

一度不満な態度を露出してしまうと、チームメンバーからのフィードバックはなかなか得られず楽なります。全員がいいものにしようと良かれと思っていっていても、受け取り方を誤るとチームメンバーも言いづらくなります。

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デザイナーの役割は、ユーザーの声に隷属することではなく、その声を元に価値を作り出すことです。フィードバックに隷属する必要はありませんが、フィードバックをもらう余地を態度によって獲得する必要があります。

そのフィードバックは少し違うかも‥と思い不満な顔や怪訝な顔を態度でだすのではなく、相手が言いやすい態度を選ぶことで周囲からも次のフィードバックを呼び寄せ、良質なフィードバックに巡り会う確率をあげることができます。

デザインは個で行う時代からチームで行う時代に変わってきています。チームでデザインを行う上でどういう関係性を作るのか、自らの姿勢や物事の捉え方がどう周囲に影響するのかを知ることでデザインの質も変わってくるでしょう。

態度を選ぶというエッセンス以外にもチームがコトに向くために必要なエッセンス知ることができるのでこの本はおすすめです。

📕フィッシュ!―鮮度100%ぴちぴちオフィスのつくり方

チームメンバーができるアウトプットを引き上げるためのサポート

いままでの内容ではデザインする個人がバイアスを認識し、対策をとる観点で記載しましたが、チームのメンバーがアウトプット主に対してできるサポートがあるのでその観点で紹介をしたいと思います。

「I Like, I Wish, What if」を活用したフィードバック術

スタンフォード大学のd.schoolが提供しているメソッド

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通常のアウトプットを磨く過程でのフィードバックというものは改善する箇所を伝えることです。

しかし、改善箇所を先に伝えてしまうと受取手としてはあんなに時間を費やしたのに、、いきなり否定されるのか、、、とサンク・コストや正常性バイアスで素直に受け取れない場合があります。​

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ですが、この「I Like, I Wish, What if」法を使うと、フィードバックの受け手が素直に受け入れやすくなる傾向になります。まず良いと思う箇所を伝える I like ~~~ 。その後により良くなるための要望を伝える I wish ~~~。そして最後に提案を伝えるWhat if ~~~~ 。

僕の所属するwevoxチームでは意識的にこれを使っているメンバーが多いので、フィードバックが素直に受け取りやすくなっている印象を受けます。

心理学の観点でいくと「初頭効果」と「親近効果」がうまく作用しているという見方も可能です。​

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I like ~~~ による「初頭効果」でこれからの内容が建設的かつ前向きな内容でフィードバックが提供されると感じ、親近効果により I wish ~~~ / What if ~~~ での内容がこのフィードバックで重要だという伝わり方になります。

大事なことやチーム内でフィードバックをし合う際は是非試してみてください。

最後に

長くなってしまいましたが、今回お伝えしたかったことをまとめます。

コトに向くためには己を含めた人間への理解を深める

✅ 人間はいくつものバイアスに引きづられて意思決定をしている

✅ アウトプットの質を高める上で、自覚してよかった2つのバイアス

⚫︎ 正常性バイアス(現状維持バイアス)
⚫︎ サンクコスト(埋没費用)効果

✅ バイアスを自覚した上でアウトプットの質を高めるための対策

● フィードバックは金脈と考える
● アウトプットのコンセプトを尖らす
● 態度を選ぶ

✅ チームメンバーができるアウトプットを磨くためのフィードバック術「I Like, I Wish, What if」法

実際のところ、アウトプットの質を上げるためには個々の技術力を上げることも必要になってきます。しかしスキルだけではなく、スキルを上げる土台となる、スタンスが育つことでスキルも飛躍的に伸びやすくなると思っています。鬼滅の刃でいうところの全集中の呼吸。技を繰り出す土台としてのバイアスの自己認知とそこに向き合うスタンスとして今回の内容が少しでも役立つと嬉しいです。

心理学や行動経済学を学んでいくと、デザインをすることは、人間を知ることだと改めて感じます。人間を心理学や行動経済学の観点で知る上で学びになった本を簡単にまとめました。

⚫︎予想どおりに不合理
⚫︎ファスト&スロー 上
⚫︎ファスト&スロー 下
⚫︎ヘンテコノミクス
⚫︎行動を変えるデザイン

今年も残すところあと2週間程度ですが、がんばっていきましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

新垣 圭悟

17卒で新宿のITベンチャーに入社し1年間営業を経験 1年後にデザイナーとしてアトラエにjoin。現在wevoxチーム 沖縄出身で県人会を都度実施しているので、沖縄出身の方はご一報ください〜