しろへびが語る「メタ認知」

 
こんにちは。Yentaのデザイナーをしている平根です。
 
今回のブログなんですが、遅筆の改善に繋がるかと思い、実験的に物語のような形式をとってみました。(いつもよりだいぶ短い時間で書けました。)
 
ただ、本当に実験の産物だなあという感じで、たいへんまわりくどくなってしまったのと、これはこれで恥ずかしいな、となったので、このエントリーは、一つの気軽な実験だということをご認識の上、どうかお暇な人だけ読んでくださいませ。
 
 
 
内容について事前に補足しますと、チーム内で高いパフォーマンスを出すために、各々が自己認識力を高めることは大切だなと改めて感じていまして、「しっかりと周りの声に耳を傾けて、振り返りをするようにしよう」と考えていたので、「メタ認知」について書きました。
 
物語に出てくる「くろねずみ」の話は、だいぶ脚色してますが、昔の私の実体験です。
 
※ 蛇とネズミともぐらが仲良く出てきますが、この蛇はネズミももぐらも食べない、という設定でお願いします。
 
 
 
 

 
 
 
 
目の前の大きな白蛇が、ゆらゆらと体を揺らしながら言った。
 
 
—— くろねずみの奴が言うにはさ、「メタ認知」ってヤツが大事らしい。
 
 
暗く冷たい穴ぐらで、小動物たちは特有のコミュニティを形成し、気ままに世間話を繰り広げている。
その一角に、神々しく輝く白蛇と、親しみやすい雰囲気のもぐらが顔を合わせていた。
 
「メタ認知?」と、突然語り出した白蛇に対し、それまで何となしに土をいじっていたもぐらはその手を止め、興味深そうに身を乗り出した。
 
 
—— そう、メタ認知。まあ簡単に言えば、「自分自身の、物事に対する認知」それ自体を客観的に認知するってことだな。
 
 
白蛇の声は、まるで地響きのように空気を震わせる。その荘厳な姿に似つかわしく、神秘的で異質な声だ。
 
威厳ある様子で話を続ける白蛇に、もぐらは小首を傾げつつ、「なんだかややこしい話ですね。それが具体的にどう大事なんです?」と続きを促す。
 
 
—— これはくろねずみの話だ。ある日ヤツは、たいへんなことに気づいた。
 
 
白蛇は、もぐらが話に食いついてきたのを認めると、満足げに頷いて言葉を紡いだ。
 
 
—— それはねずみたちの間で、通路の先にいる獲物を狩りに行こうという話になった時のことだった。仲間はみんな腹を空かせていて、一刻も早く何某かの食糧にありつく必要があった。
 
 
—— 多くのねずみは、獲物を見失う前に一刻も早く通路を抜け、一斉に攻撃を仕掛けるべきだと考えていた。もちろん、くろねずみの奴もおおむねその作戦に賛同していた。
 
 
—— しかしだ。一匹、くろねずみの奴が仲良くしている綺麗好きのねずみが、どうにもまごついている様子だった。
 
—— こいつは道をよく知っていて、縄張り周辺を案内させたらこいつの右に出るものはいない。そんなねずみだ。
 
—— 通路は入り組んでいる。獲物を袋小路に追い詰めるなら、こいつの協力は欠かせない。
 
—— だがこいつは、決定的に綺麗好きだったんだ。このねずみの唯一にして最大の弱点。汚い通路はきちんと掃除してから通るのがこいつのポリシー。その偏屈さでもって、ボスねずみの座を奪われた男。
 
 
ふんふん、といかにも人間味のある仲間内のねずみ模様に、もぐらは思わず相槌を打ちながら聞き入っている。
 
 
—— くろねずみの奴は、この綺麗好きのねずみが、汚い通路を走って獲物を追いかけることを躊躇しているのだろうと気付いていた。
 
 
—— それで、くろねずみの奴自身も、自分でもそうとは気づかぬうちに、「すぐに獲物を追うのはちょっと…」と考えているようなスタンスをとっていたんだそうだ。
 
—— 実際には、奴自身は「すぐに追った方がいい」と考えていたにもかかわらずだ。
 
—— くろねずみの奴は、それはもうほとんど自動的に、自分の意思とは関係なく、まごついた素振りを見せた。
 
 
もぐらは少し驚いて、呆れた声をあげた。
「なんです、そりゃ。実に難儀な性格ですね。無意識にだなんて。」
 
 
—— 他の連中に「一体何が気になるのか?」と尋ねられても、くろねずみの奴はうまく返答ができない。なんたって自分の意思で懸念ありげに振る舞ってるわけじゃあないからな。
 
—— 一方で、綺麗好きねずみの方に「何を懸念しているのか?」という質問が投げ掛けられた時、綺麗好きねずみの方はこう答えたんだと。
 
 
 
—— 「ちょっと、この通路だけは道がよくわかんなくてね…。さすがに食糧の確保は急務なんで、少しばかり汚いけど、誰かが先導してくれるならすぐに出発しよう。ある程度進んだら、自分にも道がわかるから。」
 
 
 
あれま、とひとりごつもぐらに、だろ?と目配せをする白蛇。
 
 
 
—— その返答を聞いたくろねずみは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、「す、すぐに行きましょう」と掌を翻すしかなかった。
 
—— くろねずみの奴は、どうして自分が獲物を追うことを渋っていたのか、自分でもわからないもんだから、「非常に奇妙な体験をした」と語ってくれたよ。危うくいたずらに時間を浪費して、獲物を取り逃すところだったそうだ。
 
 
 
—— 一連の出来事にショックを受けたそいつは、その日家に帰って、自分の行動を一つ一つ振り返って、それでやっと気がついたんだと。
 
 
—— 「自分は、他人の気持ちに同調して、まるで自分の意見みたいにそれを演じてしまう癖があるんだ」と。
 
 
—— さらに言うと、その根幹にある「綺麗好きねずみに嫌われたくない・仲間だと思われていたい」っていう自分の欲望にも。
 
 
 
エゴいっすね、ともぐら。
 
 
 
—— それ以降は、議論の時の自分の発言に注意を払うようになって、「おや、またやってるぞ」と気付いては、ちゃあんと自分の意見を言うようになったんだそうだ。たどたどしくもな。
 
 
—— 根深く染み付いた癖であるほど、往々にして「本人は気付いていない」ってことだな。
 
—— だから、実際に自分のどの行動のことなのか気付けていないうちは、周りがいくら言っても、「そういうこともあるかもな」という程度にしか受け取れない。
 
—— しかし気付きさえすれば、悪い癖が出ているその瞬間に気付いて、少し振る舞いを変えてみようかな?という選択肢が自分の中に生まれる。
 
—— これがメタ認知の効能だな。
 
 
「メタ認知、自分を変える鍵っすね」
これはいいことを聞いたぞと言わんばかりに、もぐらは感心した様子で頷いた。
 
 
—— そうだろう。周りの人に「お前ってこうだよな」と言われたら、そこに自分を理解するヒントがあるんだな。そしてその癖の根底には、きっと自分の認めたくないような恥ずかしい欲望が眠っているんだろう…。実に恐ろしいぜ。
 
—— もぐらくんも、気をつけて周囲のアドバイスに耳を傾けたまえよ。
 
 
そうやって得意げに締めくくった白蛇に、もぐらが惜しみない喝采を与えていると、どこからともなく、茶色の蛇がやってきた。
 
 
「白蛇さ〜ん! 大変です!!」
 
 
—— なんだ、喧しいな。
 
 
茶蛇の騒々しい様子に、不服そうな様子の白蛇である。身内には厳しいのかもしれない。
 
そういえば、白蛇は「子分に厳しく、自分の間違いを認めない」と話題になっていたっけ、ともぐらは逡巡する。
その噂は白蛇自身の耳にも届いていたようだが、当の白蛇は、「何を言ってる。俺は間違いを犯した時はきちんと認める、さっぱりした男だぞ。」と一蹴していたとか。
 
 
大人しそうな茶蛇は、白蛇の威圧的な態度に体を強張らせながらも、おずおずと口を開いた。
 
「キングスネークの親分に、白蛇さんが用意しろって仰った干しミミズをお出ししたんですが、こんなもの食うかーって、カンカンで…」
 
 
瞬間、白蛇の形相が恐ろしいものへと変わる。
 
—— なんだと? 誰が干しミミズを「出せ」と言ったんだ!俺は「用意しろ」とだけ言ったはずだぞ!! あの方は周期的にミミズを口にされない時期があるから気を付けろと伝えなかったか!?
 
 
まるで反射のように怒り狂う白蛇と、そんなのわかんないですよ…引き継がれてないです… という様子の哀れな茶蛇を交互に見て、もぐらは言った。
 
 
「白蛇さん、身内には反射的に怒りがち…?」
 
 
—— あ…? 
—— あっ、これか。噂になってたのは。
 
 
 
おしまい
 
 

ABOUTこの記事をかいた人

平根

2015年卒新卒入社でデザイナーをしている平根です。 教育学部英語英文学科出身ですが、未経験でデザイナーになり、サービス立ち上げ時からずっとyentaチームにいます。 少年漫画と音楽とビールをこよなく愛します。