数学のおはなし〜その2〜

こんばんは!

今回が2回めの投稿。杉山です。
前回のblogで、数学の研究でやっている
(1)徹底的に深堀る!
(2)外の世界と見比べる
のうち、(1)のことをお話しました。
今回は、(2)の外の世界と見比べるっていうお話をしようと思います!
例えば僕は、4次元空間の性質を調べる研究をしています。
その前は、「シンプレクティック多様体」と呼ばれる、2,4,6,8,10,…,2n,…次元(偶数次元)の空間について研究していました。
おそらくですが、コレを見た皆さんは?マークが大量に頭の周りを飛んでいるのではないでしょうか。
4次元ってなんだ…?とか、6次元とか8次元とかそんなのはあるのか…?
2n次元…意味わからん…nか…nは嫌いだな…
などと思うと思います。
今回は、4次元とは何かという話はしません。その代わり、何で僕( or 数学者)がそんなようわからんものを研究しているのかという話をしようと思います。
ですが、いきなり数学の話をするのではなくて、少し物語を書こうと思います。
題して、「おコメ増産大作戦!」です。
少しお付き合いください(^^)
むかしむかしあるところに、A村という村がありました。
この村の人々は、かねてから「コメの生産量を増やしたい!」と思っていました。
すると、とあるひとが米の育て方の研究を始めました。
効率のよい生産術が開発されて、コメの生産量はどんどん伸びます。
ですが、それだけやっているだけでは、米の生産量はすぐ限界を迎えてしまいました。
そこで、別の人が二毛作というのを思いつきました。(懐かしい!)
概ね、夏はコメを作って、冬は麦や大豆を作ったりすることです。
すると、土地の有効活用になりますね!
ですが、この二毛作には思わぬ効果がありました。
同じ土地で水田と畑を交互に作ることによって、土壌の状態が良くなって、連作障害(※)が起こりづらいという効果があるそうです!
(※…同じ作物ばかり作っていると、その作物に必要な栄養が土から失われて、その作物が育ちづらくなること。)
初めは、土地の有効活用として始めた二毛作でしたが、これでコメの生産量が増えることがわかりました!
こうなってくると、コメの生産量を増やすために、麦や大豆の育て方を研究する人々が現れてきます。
一見、麦や大豆の育て方はコメの生産に直接関係無いですが、これも大事な研究になります!
さて!
今までは、麻布十番で(!)コメを作っていたけど、もっと生産量を増やすため、東北、北海道にも水田を作って生産増を図ろう!となりました。
すると今度は、コメを育てるために、東北、北海道の気候や土壌を研究したり、その土地の生態系を研究する人も現れてきます。
A村の野望はとどまるところを知りません。次は世界進出です!
さらなる生産増のため、中国、ヨーロッパ、アメリカ…へ進出することになりました。
実際にそれらの地域でのコメ作りが実現できるか、そんなことはどうでもいいのです。
それが可能だったとしたら、どういう方法があるのか、どんな展開ができるのかを考えます。
そこに可能性があれば、実現できるかどうかはまず置いといてまずは研究します!勢いは止まりません!
そうなってくると、各国の地理や文化、言語の研究も大事になってきます。
その研究のさなか、この村の人々は小麦とパンに出会います。
パンというものを知り、パンとコメを比較することによって、コメがどういう食べ物だったのかの理解がより深まりました!コレは発見!
また、海外の気候がわかることによって、日本の気候に対する理解も深まります。
海外の寒冷地や、温暖な地域でのコメ作りの方法が日本に逆輸入され応用されて、日本のコメの生産量も増えました。
やったね!めでたしめでたし。
いい話デシタネー(;ω;)
コメの生産量を増やす研究をしていたはずが、(Step1 直接的な研究)
人によっては東北の気候を研究したり、中国、アメリカ、ヨーロッパ、の地理や文化などコメとは直接関係ない事を研究したりする人が現れました。(Step2 間接的な研究)
でもその研究は無駄ではなく、海外での事情を知ると、日本のコメ作りに応用できる成果が出てきたりします。(Step3 間接的な研究の成果の逆輸入)
というお話でした。
(のつもりです←)
数学の研究も、似たような歴史を歩んできました。
昔は、金利計算や、土地の面積の測定(→田んぼの面積から税金の徴収)、などの実用的な数学が研究されていました。
そして、天体の運行を計算(→暦の制定)するため、微積分が開発されました。
この辺り(19世紀末くらい)までは、実用に則した研究がほとんどでした。(Step1 直接的な研究)
20世紀の初等、Hilbert(ヒルベルト)の前後で、数学は実用から解き放たれます。
実用にこだわらずとも、そこに美しい構造があるのなら、研究する価値があるという価値観が、数学者の間で広まっていきます。
理論やその構造自身が美しいなら、その研究そのものに価値があるという考え方です。研究の自己目的化です。
この頃から、この世の中に存在するか否かにかかわらず、様々な対象が研究されるようになりました。
僕の分野(幾何学)では、この3次元空間では実現できないような曲がり方をした空間とか、4次元空間、5次元空間、6次元空間…n次元空間…無限次元空間…などの高次元空間とかの研究がなされるようになりました。
これらのこの3次元空間では実現できないような曲がり方をした空間や高次元空間など、この世界には直接関係なさそうな研究が始まったのです。
(Step2 間接的な研究)
変な曲がり方をした空間があるのかないのか、
高次元空間があるのかないのか、
そんなことはどうでもいいのです。
そういうものがあったとしたら、どういう性質があるのか、どんな理論が展開できるのかを考えます。
そこに美しい構造があれば、実用とかはまず置いといて研究します。
そんなよくわからんもの研究して何の意味があるんだ!と思うかもしれませんが、
「この3次元空間では実現できないような曲がり方をした空間」を研究することによって、逆に普通の3次元空間の特色がよく分かるようになりました。
高次元空間についての研究もそうで、高次元を見ることによって、3次元空間の特殊性が分かったりしました。
また、変な曲がり方をした空間の研究は、一般相対性理論に用いられ、その一般相対性理論はカーナビなどのGPSシステムに利用されています。このような実用的な応用にも結実しています。
高次元空間の理論も、最新の宇宙論に応用されており、現在の宇宙の様子や、宇宙の始まった瞬間のことが研究されています。実際、10,11,26次元時空なんかが使われています。(Step3 間接的な研究の成果の逆輸入)
以上です。
なんとなく、僕が4次元空間とか、偶数次元空間を研究していた動機がお分かりいただけたでしょうか?
数学者は、最近はほんとなんだかよくわからない対象を研究しているのですが、
それはなぜかというと、そういう研究があると、よりこの世界についての理解が深まるからなのです。
そしてそれだけではなく、思いもよらない形で、数学が現実世界に応用されることが有ります。その可能性を信じて、今は実用と全く関わらなさそうなことも研究しているのです。
以上です。
数学の話もそろそろ飽きたので、次はまた全く別の話をしようと思います(^^)
乞うご期待!それではまた合う時まで!

ABOUTこの記事をかいた人

杉山 聡

博士(数理科学) 2016年10月から Atrae に join し、 Green の marketing を担当した後、現在は wevox の data scientist として従事。 北里大学の島津研の特別研究員としても活動しており、 work engagement 関連の研究に参加している。