アカデミアからビジネスへ転向したあなたへ

Atrae 4年目 Data Scientist の杉山がお送りします。

私は、数学の博士課程を修了してから Atrae に入りました。
当初、アカデミアの価値観からビジネスの価値観への移行に大変苦労しました。
ただそれは、どちらかが正しくてどちらかが誤っているわけではなく、何を目的として、何を大事にするかの違いでしかないと思います。
今日はそんな話。

意思決定が仕事

「ビジネスは科学的に正しくないことをするから嫌いだ」と思っているあなたへ

アカデミアでの価値と、ビジネスでの価値は異なります。
アカデミアにおいては意思決定は価値の中核ではありませんでしたが、ビジネスではこれが中核です。

アカデミアでの価値は、自然の真理に向き合い、試行錯誤して考え抜いて、自然の声を正しく聴いて、そしてそれを忠実に表現することです。
アウトプットである論文の主要な部分に、自分の意志を入れることはありません。それは良くないことでした。

ビジネスでは違います。ビジネスでは、答えのない問題を解きます。
「いや、研究も答えのない問題解いてるわ!勉強とは違うんだぞ!」という反論もあるかもしれないですが、少し落ち着いて下さい。
ビジネス文脈における、答えがない問題というのは、研究文脈での「まだ誰も答えを知らない問題」のことではなく、「どんな決断をしても、それが正解だったかどうかが判定不能な問題」のことです。

たとえ話で説明します。広告費が100万円あります。広告の投資先として、AとBがあります。あなたは、この予算配分を決める仕事をしています。
例えば、 A に30万、 B に70万投資したとしましょう。すると、そこそこの結果が帰ってきます。
仮に、 A に70万、 B に30万投資したとしましょう。このときも、そこそこの結果が帰ってきます。
現実はこんなもんです。どっちが良かったかはわかりません。
特に、この2パターンを試して比較するということが不可能です。
やったらやったでもう終わり。別パターンは試せない。成果は出たり出なかったりする。結果が良くても悪くても、それが最善だったかはわからない。そんなもんです。

研究と異なり、査読者や、指導教員や、自然の摂理が、自分の回答の正誤を判定してくれることはありません。
むしろ、何が正解なのか、もっというと、何なら正解に限りなく近いと思えるのか、それを決めることが仕事で、これが意思決定と呼ばれるものです。
自分の意思決定に、覚悟と自信を持ち、仕事を前に進める。これがビジネスです。

統計的な有意差がなくとも、理解に足るデータ量がなくとも、意思決定は、します。
例えば、こんな問題を考えましょう。あなたの次のごはんは、何を食べるのが最適でしょうか。
データをもとに意思決定したいと思っても、データが存在しなかったり、分析できたとしても有意差がなかったりすることが多いと思います。
では、選べないから、食べないという選択をするでしょうか?それでは飢えてしまいますね。
同じことを会社でやると、会社は潰れてしまいます。だから、データが足りなくとも、意思決定は、するのです。

ちなみに、実は皆さんもすでに、研究で同じことをやってきています。
例えば、「次なにの論文読もうかなぁ」とかです。
次どの論文を読むのがあなたにとってベストか、それはわからないですよね。でも、決めながらやってきたはずです。
このような意思決定を、なるべく精度を高めるためにいろいろ試行錯誤し、そして最終的な意思決定をする。
これが、ビジネスにおける価値の中核の1つです。

相手の立場を理解する

「あいつらマジ何考えてるのかわからん」と思っているあなたへ

正解がない問題を考えているので、合意できる意思決定に至るのは、アカデミアほど簡単ではないです。
驚くべきことに、ビジネスにおいては、論理的に正しい帰結であっても、異なる立場の人が考えた場合、それらが一致しないことが一般的です。
(数学なら、証明読めば再現性 100% なので、そんなことはなかったのですが、、、。)

例えば、こんな課題があったとしましょう。
「周長が3で、一番すごい三角形を作ってね」
この課題に対して、 A さんと B さんは次のように考えました。

実は、 A さんは、「高い三角形はすごい」と考えて、この三角形を提案し、 B さんは、「対象性がある三角形はすごい」と考えて、この三角形を提案しています。

ここで、こんな会話をしたとしましょう。
A 「は? そのずんぐりむっくりなやつなに?」
B 「お前こそその汚い三角形なんだよ」
こうなったら戦争です。

実は、戦争を回避するよい方法があります。それは、相手がどう考えてその結論に至ったのか、その背景や立場を理解することです。
A さんも、「 B さんは対称性を重視した」ということがわかっていれば、少なくとも、全面否定を要する意見ではないとわかったはずです。
対称性を重視した理由が全く理解できないのであれば、その背景の理解も試みましょう。
たいてい、背景を何重もたどれば、共通の目的があるはずです。
ビジネスなら、例えば、事業の価値を高めること、多くのお客さんに利用してもらうこと、業務の効率を高めることなどです。
深いレベルで相手の考えがわかり、自分の考えも共有できれば、両者にとって最適な第三の案を考えることができます。
これが、いい仕事の進め方ではないでしょうか。

アカデミアに長くいると勘違いしがちなのですが、論理的に正しい帰結は1つでない事が多いです。更に悪いことに、かなり多くの場面でそれらは対立します。
アカデミアでは、正しいことは正しいので、私が正しいと思っていることは、相手も正しいと思っている事が多かったでしょう。
また、相手と意見が食い違ったら、どちらか一方が誤っている可能性が高かったと思います。
でも、ビジネスでは異なります。
考えてもみてください。私は今日カレーを食べ、別の人は今日カツ丼を食べたとしましょう。どちらかが誤っているでしょうか?(※)

この勘違いは、容易に対立や軋轢を生むので非常に危険です。
かなり強く意識しながら、表にそういう態度を出さないことをお勧めします。

※もしこれが、カレーとカツ丼ではなく、きのことたけのこだったとしたら、たけのこが正解です。きのこは誤りです。異論がある方はお申し付けください。

会話の目的は意思疎通

数学者な私、気になる言い回しがあります。それは、

A 「 1+1 が 2 になるんじゃだめ。 1+1 を 10 や 100 にする方法を考えなきゃ」
B 「お客さんとの期待値のすり合わせがうまくいってないんじゃない?」

これに反応したくなるのをぐっと抑えましょう。
これらは、慣用句です。
「何言ってるんですか、 1+1 は 2 ですよ?」という行為は、
「2階から目薬」に対して、「いや、2階から目薬さすやついないでしょ普通」と答えるに等しいです。

会話の目的は意思疎通です。伝わればいいのです。細かい言葉にいちいち囚われていてはいけません。
それは、Σの文字を i にするか k にするか n にするかで揉めるようなものです。
そんなくだらないことはやめましょう。

おわりに

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ABOUTこの記事をかいた人

杉山 聡

博士(数理科学) 2016年10月から Atrae に join し、 Green の marketing を担当した後、現在は wevox の data scientist として従事。 北里大学の島津研の特別研究員としても活動しており、 work engagement 関連の研究に参加している。